TCFD提言への対応
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD; Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、G20の要請に基づき金融安定理事会により設立されたタスクフォースで、コーポレートガバナンスコードにおいて、プライム上場企業は気候変動がもたらすリスクおよび機会を把握、開示することを推奨する提言が2021年6月に発表されました。
当社におきましては、サステナビリティ経営に向けた事業活動を推進していくにあたり、現状の地球規模での気候変動に関する課題への取り組みが会社の重要な経営課題であるマテリアリティの一つであると認識しています。そして、その課題への適切な対応のための全社組織体を設置することで社内体制を整えると共に、その課題に含まれるリスクと機会を的確に把握し計画的に解決するための経営プロセスの仕組みを導入しています。
また、気候関連のリスクと機会による会社の事業や財務などへのインパクトに対する戦略・対応は、自社の事業内容や事業規模、バリューチェーンなどの特性を元に分析を進めるとともに、活動目標や指標の設定についても今後検討して参ります。
ガバナンス
当社では、経営に関する様々な中長期課題を検討・推進する組織として、取締役会の下位にサステナビリティ委員会を設置しています。当委員会は、代表取締役社長を委員長として取締役で構成し、必要に応じて委員長の指名によるメンバー以外の出席や社外の有識者などからの助言等も受けながら委員会を運営します。
サステナビリティ委員会の機能としては、気候変動課題も含めた、環境・社会・ガバナンス(経営)に関連するグループ全体のサステナビリティに対する、基本方針の策定、仕組みの構築、取り組み施策の検討、目標指標の設定などを行うと共にグループ内の状況調査などを行い、委員会で審議された取り組みは取締役会による監督・指示を受ける仕組みとなっております。
戦略
地球温暖化に伴う気候変動は、商社機能を主とする当社にとっては、資材商材の調達コストの高騰や自然災害によるサプライチェーンの混乱など、当社グループの事業に様々な影響を及ぼす可能性があります。それらの潜在的な影響度をシナリオ分析により評価すると共に対策を検討し、リスクおよび機会への課題に取り組んでまいります。
1.シナリオ分析
気候変動が当社グループに及ぼすリスク・機会の抽出と、そのリスク・機会に対する中長期の戦略を検討するにあたり、2030年までを対象期間として2100 年までの平均気温上昇が 1.5℃未満の場合と、4℃の場合について、国際的に認められた下記の複数の気候変動シナリオを参照しています。なお、1.5℃未満のシナリオが無い場合は2.0℃未満のシナリオで代替しています。
①対象とした期間
2030年
参照シナリオ:Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)
( 一部代替シナリオ:Sustainable Development Scenario(SDS))
発行: 国際エネルギー機関(IEA)
参照シナリオ:Representative Concentration Pathways (RCP8.5)
発行: 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
分類 | 機会/ リスク |
時間軸※ | 影響の 重要度 |
主な内容 | 主な取り組み/対応方針 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1.5℃ | 4℃ | ||||||
移行 リスク |
法・ 規制 |
機会 | 長期 | 小 | 小 | ・規制を受けない新規素材の使用開始に伴う新規製品需要の発生 |
・省/再エネルギーを使用した商材の販売強化 |
リスク | 長期 | 大 | 小 | ・温暖化ガス抑制政策(炭素税等)導入に伴う、 事業コストの増加 ・製品素材への規制によるコスト増加 |
・カーボンニュートラルに向けた取り組み ・次世代素材への転換促進 |
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市場 | 機会 | 中期 | 小 | 小 | ・環境変化に対するサステナビリティ商品需要の発生 ・機能性素材の開発の推進 ・環境に配慮した製品への志向や価値観の高まり |
・環境負荷低減が可能な素材の開発と活用 ・サステナビリティの浸透に向けたECO製品の拡充と情報発信 |
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リスク | 中期 | 大 | 小 | ・輸送など燃料価格の上昇によるコスト上昇 ・現行商品の製品ニーズの減少 ・代替製法を必要とすることによるコスト悪化 |
・効率の良い物流システムの構築 ・次世代素材を使用した製品への転換促進 |
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物理的 リスク |
急性 | 機会 | 中期 | 小 | 小 | ・天候不順や異常気象に対応可能な機能性商品への需要増加 |
・リスク対策に向けて機能性を向上した新製品の開発と販売 |
リスク | 長期 | 小 | 小 | ・異常気象による、拠点被害や供給ルート分断によるコスト発生 ・高温化・寒冷化による温調エネルギー増大によるコスト増加 |
・BCP対策による水害対策強化および自社資産の管理強化 ・サプライチェーンに関する総合的なリスクマネジメント |
※リスクおよび機会の本格化までの猶予期間
(短期:~3年 中期:3~7年 長期:7年~)
2.財務影響評価
シナリオ分析では、将来において当社グループに影響が及ぶと予測される気候関連のリスク要因を検証・分析いたしました。財務的影響については2022年度において、国内および海外のすべてのグループ会社(影響の軽微な子会社を除く)を対象として、今回は当社の祖業であり主力事業でもあるアパレル事業要素について試算を行いましたが、今後は他の事業分野にも展開し分析していく予定です。
<1.5℃シナリオ>
温暖化ガス抑制政策の本格化による炭素税の導入について検討を行いました。IEAのNZEシナリオに基づき、当社グループ会社の各所在国における炭素税の導入を仮定し、現在のGHG排出量(Scope1,2)を元に試算した結果、財務的影響は軽微であると認識しております。また、商社機能を主とする当社としては、電力料金を始めとする燃料価格の上昇に対しても財務的な影響は軽微であり、レジリエンスを有していると考えております。
<4℃シナリオ>
当シナリオでは脱炭素に向けた施策の導入も緩やかであり、その結果としての気象災害の激甚化による洪水や高潮被害から想定される被災の影響を試算いたしました。商社という事業特性から、保有する事業用資産なども限定的であり、当社への財務的影響は大きくないと考えております。現在も災害リスクなどを考慮して、サプライチェーンマネジメントの強化による被害可能性の最小化に向けて、BCP対策の強化を進めております。また、迅速かつ柔軟な事業展開により、異常気象などにも対応可能な機能性商品の開発強化などにより、新たな事業機会の獲得にもつながると考えております。
リスク管理
当社では、グループ全体におけるすべての事業活動を対象にしたリスクマネジメント体制を構築しています。代表取締役社長を委員長とし、管理部門の本部長および法務部長、内部監査室長をメンバーとする、リスクマネジメント統括機関としてのコンプライアンス委員会を設置しています。
コンプライアンス委員会においては、全社リスクに関し各部門・子会社に対する年一回のヒアリングによるアセスメントを実施し、その結果をもとに影響度および発生する可能性の2つの側面でマトリクス分析を行い選別・評価したリスクへの対策実施結果と改善計画を年二回取締役会に報告する、というPDCAを基本としたリスクマネジメントサイクルを構築しています。
このマネジメントサイクルにサステナビリティ委員会の活動を同期・連携することにより、気候変動に関するリスク把握はコンプライアンスおよびサステナビリティ管轄の両委員会が情報共有を行い協働して参ります。気候変動に関する「リスク」最小化と「機会」最大化による企業価値向上に関しては、サステナビリティ委員会において各種方針・戦略の策定、取り組みのモニタリングなどを実施する体制となっています。
指標と目標
当社は2022年度から、温暖化ガス排出量の削減に向け、国際基準であるGHGプロトコルに従った算定方法で、海外も含めた当社グループにおけるCO₂排出量の測定を開始いたしました。
地域 | Scope1 | Scope2 | 合計 |
---|---|---|---|
日本国内 | 667 | 917 | 1,584 |
日本国外 | 1,752 | 4,166 | 5,918 |
●当社では、2022年度から国内外の当社グループ会社において、温暖化ガス(GHG)Scope1,2の排出量の算定を始めました。最終的にはサプライチェーン全体におけるカーボンニュートラルを推進することが社会的責任だと認識しており、Scope3につきましても削減を推進できるよう、体制を構築してまいります。
●現在のところ、GHG排出量削減に向けての目標設定はしておりませんが、排出元の特定などの詳細の把握が終わり次第、継続して排出量を点検し削減に努めてまいります。当社は、サステナビリティ社会の実現に向けて今後も引き続き積極的に取り組み、日本政府が目標とする2050年でのカーボンニュートラルに挑戦してまいります。
※Scopeとは
Scope1:事業者自らによる温暖化ガスの直接排出
Scope2:他社から提供された電気や熱・蒸気などの使用に伴う間接排出
Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)